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大阪地方裁判所 昭和32年(行)19号 判決 1966年6月13日

原告 一丸株式会社

被告 大阪府生野府税事務所長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一、申立

原告訴訟代理人は、「被告が昭和三一年一一月一三日付決議第一五六四号をもつて原告の別紙目録記載不動産の取得に対してなした不動産取得税賦課決定中、別紙目録記載家屋の課税標準額を五、五二九、〇〇〇円とする部分の内二、四六八、〇〇〇円を超える部分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、

被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めた。

第二、事実上ならびに法律上の陳述

原告訴訟代理人は、請求原因等として、次のとおり述べた。

(請求原因)

一、原告は、昭和三一年九月二六日訴外大阪企業株式会社から売買により同会社所有の別紙目録記載の土地ならびに家屋(以下、「本件家屋」という。)を取得したが、被告は原告に対し、昭和三一年一一月一三日付決議第一五六四号をもつて、本件家屋の課税標準額を五、五二九、〇〇〇円とする不動産取得税賦課決定(以下、「本件賦課決定」という。)をなし、原告は、その頃右決定の通知を受けた。

原告は、本件賦課決定中本件家屋に関する部分を不服として、被告に対し同月二四日付で異議の申立をしたが、被告は、昭和三二年二月二八日付で右申立を却下する決定をし、原告は、その頃右決定の通知を受けた。

二、しかしながら、本件賦課決定中本件家屋の課税標準額を五、五二九、〇〇〇円とする部分の内二、四六八、〇〇〇円を超える部分は、以下記載の事由により違法であるから、その取消を求める。

1、本件家屋は、訴外株式会社市村組が昭和二七年一一月末頃みずから建築所有したアパートであるが、右訴外会社は土木請負業者であつたので外観は良くても概して粗悪で格安な建築材料を使用していたため耐久年数が極めて短く、そのうえ共用施設が多いため通常の住宅に比べ破損の程度も著しい。したがつて、建築後すでに約四年を経過していた原告取得時における本件家屋の価格は、新築当時の半額とみて、二、四六八、〇〇〇円(坪当一〇、〇〇〇円)が相当である。

2、前記異議の申立に際して、被告は、本件家屋の価格を評点式評価方法によつて評価しているが、この方法による評価が適法であるというためには、この方法に合理性があり、かつ、更に合理的な評価方法が存在しないこと、更に合理的な評価方法をとり得ない事情のあることを要する。しかしながら、不動産の時価を評価する方法としては、評点式評価方法だけではなく、他に種々の合理的方法があることは顕著である。

しかも、被告は、評点式評価方法によつて本件家屋の価格を評価するにあたつて、次の誤りをおかし、過大な評価をしている。

(1) 本件家屋のように一棟の延坪が一二五坪にも及ぶ大きい建物は、一棟の延坪が二〇坪以下程度の小規模の建物に比べ、外壁と建物の割合、屋根坪と建坪の割合が遙かに少くなり、したがつて坪当建築単価は非常に安くなるにもかかわらず、その点の配慮が全く払われていない。

(2) 古材の材料費を新材の材料費の八割又は九割程度に評価しているが、古材は新材の半額以下に評価すべきである。

(3) 天井を杉板目不揃としているが、実際は、ラワンのベニヤ板(価格は普通の杉板の半額以下)を、普通の杉板張天井のように釣天井としたものである。

(4) 天井に漆喰壁部分があるとしているが、実際は、木ずりに下地をせずに目土を塗り、その上にセメント仕上をしたものである。

(5) 単位評点数も、時価を無視した値段をつけている。フラツシユ板戸一枚を四、〇〇〇円と評価しているが、実際は、精々一、六六五円程度に過ぎない。

(6)、仮に本件家屋の復成価格が坪当二三、〇〇〇円であるとしても、国税におけるアパートの減価償却率は八分八厘であるから、建築後四年を経過した本件賦課決定当時の坪当価格は一五、九一三円である。

3、仮りに以上の主張が認められないとしても、昭和二九年法律九五号改正地方税法七三条の二一の一項但書(以下、同法の各条文は、単に「法何条」という。)に規定する「特別の事情」が存在するから、固定資産課税台帳の評価額をもつて本件家屋の不動産取得税課税標準額とすることはできない。

すなわち、本件家屋の昭和三一年度の固定資産課税台帳評価額は、本件家屋の前所有者から不服の申立が終局的に行われずに確定し、しかも、その確定した価格が前記2のとおり評価の方法を誤り著しく不当である事情は、右「特別の事情」にあたるというべきである。

4、もし、右の事情が法七三条の二一の一項但書の「特別の事情」とされないのであれば、不動産取得税の課税標準を取得年度における固定資産課税台帳の評価額によるとする同条同項本文の規定は、不動産取得税納税義務者に対し右評価額について不服申立の道を一切閉ざしている点において、憲法三二条、七六条に違反し、無効である。

けだし、法七三条の一三の規定は、不動産取得税の課税標準を不動産取得時における不動産の価格とし、法七三条の二一の一項本文の規定は、固定資産課税台帳の評価額をもつて右不動産取得時における不動産の価格とすると擬制している。しかし、右評価額に対して不服申立のできる者は、固定資産税納税義務者のみであつて、不動産取得税納税義務者には何ら不服申立の方法がない。しかも、評価額に不服のある固定資産税納税義務者といつても、そのすべての者が不服申立をするとは限らない。このような場合をも考慮すると、前所有者から本件家屋を包括承継した者ならばともかく、単に特定承継したに過ぎない原告に対し、前所有者の固定資産税に関し確定した評価額を、当該固定資産税納税義務に関してではなく、別個の原告の不動産取得税の課税標準に関して、その不当を争う余地を認めないのは、前掲憲法各法条に違反する。

5、仮にそうでないとしても、本件家屋については、固定資産評価の日である昭和三一年一月一日から原告が本件家屋を取得した同年九月二六日までの間に、別表記載のとおり損かいがあつたから、法七三条の二一の一項但書所定の損かいがあり、右昭和三一年九月二六日における本件家屋の価格は、前記1で主張した価額が相当である。

三、よつて、原告は被告に対し、本件賦課決定中本件家屋の課税標準額を五、五二九、〇〇〇円とする部分の内二、四六八、〇〇〇円を超える部分の取消を求める。

(被告の主張に対する答弁等)

四、被告の主張二の事実中本件家屋の固定資産課税台帳の評価額が被告主張のとおりであること、被告の主張五の事実は認める。

五、原告が本件家屋の所有権移転登記に際し右評価額にもとづき登録税を納付したのは、決してその価格を正当と認めたからではなく、不動産取引は登記完了をもつて終了するという慣行に従い登記手続を急ぐあまり、やむなく右価格によつたものに過ぎない。それ故、原告は、右登録税について審査請求をしたのである。もつとも同請求は昭和三三年一月三一日不適法として却下された。

被告訴訟代理人は、答弁ならびに主張として、次のとおり述べた。

(答弁)

一、請求原因一の事実は認める。

同二の1の事実中本件家屋が昭和二七年一一月末頃建築されたものであることは認めるが、その余の事実は否認する。

同二の2、3の各事実は否認し、同二の4の主張は争う。

同二の5において原告が主張する別表記載の事実中、(1)は昭和三二年七月に二室、昭和三三年一一月に三室の各天井板取替があつたことを認める。(2)および(3)は否認する。天井板に隙間ができても損かいには当らない。(4)の四ケ所の修理は認めるが、内二ケ所は昭和三一年頃、内二ケ所は昭和三三年一一月に修理された。(5)は否認する。(6)は不知。(7)は否認する。(8)はベニヤ板が二枚だけめくれていることを認めるが、右は昭和三二年六月二六日豪雨の際の浸水による破損である。(9)は昭和三三年一一月に修理されたものであるが、元来物干場は評価の対象になつていない。(10)は四本、(11)は二本、それぞれ材料を取り替えているが、門の扉は評価の対象になつていない。(13)は否認する。

(主張)

二、請求原因二の1および2について。

本件家屋は、固定資産課税台帳に評価額の登載されていた不動産であつたので、被告は、法七三条の二一の一項本文の規定にもとづき、その評価額五、五二九、〇〇〇円により不動産取得税の課税標準額を決定して課税したのである。

三、右評価額は、大阪市長が、

(一)  法三八八条により自治庁長官が道府県知事に対して示した固定資産評価基準(昭和二九年一一月一九日目乙市発六七号自治庁次長通達。以下、「自治庁評価基準」という。乙第九号証の一、二)。

(二)  法三八八条二項(特に二号、三号)、自治庁評価基準、法四〇八条から四一〇条までの諸規定にもとづき、大阪市において、条例をもつて定めた、

(1) 固定資産の評価の方法について基本となるべき事項を定めた固定資産評価基準(以下、「大阪市評価基準」という。乙第二〇号証。)、

(2) 大阪市評価基準の別冊昭和三一年度標準家屋一覧表(以下、「標準家屋一覧表」という。乙第二一号証。)

(3) 大阪市評価基準の細部の実施を定めた固定資産評価基準実施細則(以下、「実施細則」という。乙第二〇号証。)、

にもとづいて決定したものである。

その詳細は、以下のとおりである。

1、自治庁評価基準は、家屋の評価は、各個の家屋の評点数に、自治庁長官の指示にもとづき都道府県知事が定めた評点一点当りの価額を乗じて求める(自治庁評価基準三章一項、四項)と定めているが、右家屋の評点の定め方については、二つの方法を定めている。

その一つは、原則的方法として、「当該家屋の再建築費評点数を求め、これに家屋の経過年数、損粍の程度、所在地の状況、床面積の広狭、その他利用価値等を考慮して定めるものとする。」(同章二項)とし、この場合の評点数の算出方式(同章一〇項)、考慮すべき増減点率(同章一二項)を定めている。

今一つは、特例的方法であつて、「市町村は、その実情に応じ、家屋の用途別、構造別に標準家屋を選定し、当該標準家屋の再建築費評点数に比準して各個の家屋の再建築費評点数を求め、これに当該家屋の経過年数、損粍の程度、所在地の状況、床面積の広狭その他利用価値等を考慮して評点数を定めて差し支えないものとする。」(同章三項)と定めているのである。

2、大阪市は、右の特例的方法によつて家屋の評点を定めることにし、市内において一〇〇戸近い標準家屋を選定し、それぞれの再建築費評点数(大阪市評価基準は、これを復成評点という。)を求めて標準家屋一覧表を定め、これに比準して各個の家屋の復成評点を決定した。

本件家屋は、主たる建物(以下、「A棟」という。)、附属建物(以下、「B棟」という。)ともに、標準家屋一覧表の木造の部、用途(四)アパート・簡易旅館・ホテルの番号31の標準家屋である都島区御幸町三丁目二三番地所在、昭和二七年竣工木造瓦葺二階建共同住宅福寿荘、復成評点二三、〇〇〇、概要が最低予算で建築したと思われるアパートで外観は一応整つているが、材料、施工、仕上等余り良好でない家屋に比準し、本件家屋の方が良く評点を増してもよかつたが、本件家屋には一部古材使用があるので、右標準家屋のとおり坪当復成評点二三、〇〇〇点としたのである。

3、右のようにして求めた本件家屋の坪当復成評点二三、〇〇〇点に、次に記載する<1>(イ)経年減価率九三%、(ロ)管理増減価率〇%、<2>(イ)地域的効用増減価率増五%、(ロ)利用価値増減価率〇%を、次式のとおり適用して坪当評点二二、四〇〇点を得た(大阪市評価基準三章五項1)。

坪当復成評点23,000×経年減価率93%×(100±管理増減価率0%)×(100±地域的効用増減価率5%±利用価値減価率0%)=22,400

<1> 物理的増減価考慮

(イ) 経年減価――残価率九三%

本件家屋は、復成評点二三、〇〇〇点のアパートであり、昭和二七年一一月末頃竣工の木造家屋であるから昭和三一年一月一日現在家屋年令は四年である(実施細則二章第二評価要領七項)。そこで、大阪市評価基準三章八項1但書により実施細則別表(1の1)「経年に応ずる残存価格率早見表(昭25、1、2以降28、1、1まで竣工した木造家屋)」により、残存価格率九三%とした。

(ロ) 管理増減価

大阪市評価基準三章八項2により、実施細則別表(2の3)「管理増減価率表」に照らし、管理を普通と判定し、管理増減価率を〇%とした。

<2> 経済的増減価考慮

(イ) 地域的効用増減価

大阪市評価基準三章九項1により、本件家屋の敷地である別紙目録記載土地の昭和三一年度宅地路線価三、九〇〇点を基準とし、実施細則別表(3の1)「地域的効用増減価率表(木造の部)」により地域等級一一増価率一〇%を得たが、実施細則二章第二評価要領一一項(1)により、本件家屋は専用住宅で現に専ら居住の用に供している家屋であるとして、右地域等級一一より一等級格下げした地域等級一二の増価率五%を適用した。

(ロ) 利用価値増減価

大阪市評価基準三章九項2により、実施細則別表(4)「利用価値増減価率表」に照らし、程度普通と判定し、利用価値増減価率を〇%とした。

4、前記算式により得た本件家屋のA棟、B棟の各坪当評点二二、四〇〇点に、本件家屋の床面積A棟一二五・九二坪、B棟一二〇・九二坪を乗じて、A棟の評点二、八二〇、六〇〇点、B棟の評点二、七〇八、六〇〇点、右合計五、五二九、〇〇〇点(実施細則二章第二評価要領一項により一、〇〇〇点未満切捨)を得て、更に、これに自治庁長官の指示にもとづき大阪府知事が定めた昭和三一年度の評点一点当りの価額一円を乗じ、本件家屋の評価額五、五二九、〇〇〇円を決定したものである。

四、ちなみに、原告のなした異議申立に際し、被告は、自治庁評価基準に従つて本件家屋の部分別評点数を検討した結果、A棟の再建築費坪当評点数二二、五六八点、B棟の同評点数二二、七〇〇点と認め、前記大阪市長の認定した復成評点二三、〇〇〇点は妥当であると認めた。

五、なお、本件家屋の前所有者である訴外大阪企業株式会社は、その所有当時、本件家屋の固定資産評価額五、五二九、〇〇〇円につき、大阪市固定資産評価審査委員会に異議の申立をしたが、昭和三〇年四月二〇日却下決定があり、同決定は確定した。又、原告も昭和三一年一〇月三〇日右評価額を登録税の課税標準額として所有権移転登記をしており、更に昭和三二年度の固定資産税も大阪市から右評価額をもつて決定されたが、原告は、これに対しても何ら異議の申立をしていない。

六、請求原因二の3について。

法七三条の二一の一項但書の規定する「特別の事情」とは、同但書に列挙された増築、改築、損かい以外で、市町村長の行つた当該固定資産の価格の決定に重大な錯誤があつた場合、又は大幅な物価の変動もしくは地域的な事情の変化等評価の要素に大きな変化があつた場合などをいうのであつて、原告主張の事情はこの場合に当らない。

七、請求原因二の4について。

単に所有者が変更したことによつて当然にはその不動産の価格に変動のあるべきはずはないのであるから、特定承継の場合も、法七三条の二一の一項但書の規定に該当する事情のない限り、前所有者当時すでに確定した固定資産の価格は、新たな取得者に承継されたものとして取り扱うべきである。前所有者がたまたま不服申立の権利を行使しなかつた場合に、その者がそのために不利益を甘受しなければならないのは当然であり、その者から権利を承継取得した者も亦右の不利益を承継するのは己むを得ないところである。ただし、前記但書の規定に該当する事情があるときには、右確定した価格により得ない場合として、あらためて不服申立をすることができるのであるから、原告主張のような憲法違反はあり得ない。

八、請求原因二の5について。

被告は、原告のなした異議申立を、法七三条の二一の一項但書の規定する「損かいその他特別の事情がある場合において当該固定資産の価格により難いときは、この限りでない」ことを事由とするものとして取り扱い、自治庁評価基準によつて精細に調査したが、右但書にいう損かいに該当することは認められなかつた。

なお、右但書の規定の解釈運用の適否は、固定資産税ならびに不動産取得税の課税体系に重大な影響を及ぼすものであつて、自治庁においても全国的に統一した指導のもとに、その運用の適正を期しているが、その解釈するところは次のとおりである。

(1) 損かいとは、地方税法にその用語の意義について規定されてはいないが、当該規定に「増築、改築、損かい」と列挙されていること、ならびに同法に規定されている増改築の用語の意義等に照らし、家屋については、その主要構造部(壁、柱、床、はり、屋根又は昇降の設備をいう。)の一種以上に当該構造部の更新を要する大きな損傷があつた場合、もしくはこれに準ずる程度の損傷があつた場合をいう。しかも、その損かい事由は固定資産税の賦課期日以後不動産取得の日までに発生したものであることを要する。

(2) 「当該固定資産の価格により難いとき」とは、法七三条の二一の一項本文および四一七条一項の規定の趣旨に照らし、固定資産課税台帳の評価額が、損かい等の事情による変動後の価格と著しく異なる場合をいうものであつて、その差が著しくない場合には、ことさら右評価額と異なつた価格を決定すべきではない。運用上、通常の場合で概ね三割内外の差があるときにその差が著しいとしている。

第三、証拠<省略>

理由

一、原告が昭和三一年九月二六日訴外大阪企業株式会社から売買により同会社所有の本件家屋、外別紙目録記載土地一筆を取得したこと、被告が同年一一月一三日付決議第一五六四号により原告に対し、本件家屋の課税標準額を五、五二九、〇〇〇円とする本件賦課決定をしたこと、原告が被告に対し本件賦課決定中本件家屋に関する部分につき異議申立をしたが、被告が昭和三二年二月二八日付で右申立を却下する決定をしたこと、本件家屋の固定資産課税台帳の昭和三一年度評価額が五、五二九、〇〇〇円であることは、いずれも当事者間に争いがない。

二、成立に争いのない乙第一号証、乙第三号証、証人八木健次郎の証言、弁論の全趣旨を総合すると、大阪府知事から権限の委任を受けた被告は、法七三条の二一の一項本文の「道府県知事は、固定資産課税台帳に固定資産の価格の登録されている不動産については、当該価格によつて当該不動産に係る不動産取得税の課税標準額を決定するものとする。」との規定に従つて、前記本件家屋の固定資産課税台帳の昭和三一年度評価額五、五二九、〇〇〇円をもつて本件家屋に関する不動産取得税の課税標準額とする本件賦課決定をしたことが認められる。

三、そして、前記本件家屋の固定資産課税台帳の昭和三一年度評価額について、大阪市長がこれを決定した経緯に関し、前示乙第一号証、成立に争いのない乙第五号証の一、二、乙第九号証の一、二、乙第一五号証から第二一号証まで、乙第二二号証の一、二、証人中前利憲の証言、弁論の全趣旨を総合すると、次のとおり認められる。

法三八八条の規定にもとづく自治庁評価基準(昭和二九年一一月一九日自乙市発第六七号自治庁次長通達、乙第九号証の一、二)は、家屋の評価について、「家屋の価額は、家屋の評点数に、評点一点当りの価額を乗じて求めるものと」し、右「評点一点当りの価額は、当該市町村の家屋の坪当りの平均価額を基礎として求めるものとし、当該市町村の家屋の坪当りの平均値は、自治庁長官の指示にもとづき都道府県知事が定めた額によるものとする。」(自治庁評価基準三章一項、四項)と定めた。そして、「各個の家屋の評点数は、当該家屋の再建築費評点数を求め、これに家屋の経過年数、損粍の程度、所在地の状況、床面積の広狭その他利用価値等を考慮して定めるものとする。」(同章二項)と定めたが、その特例として、「市町村は、その実情に応じ、家屋の用途別、構造別に標準家屋を選定し、当該標準家屋の再建築費評点数に比準して各個の家屋の再建築費評点数を求め、これに当該家屋の経過年数、損粍の程度、所在地の状況、床面積の広狭その他利用価値等を考慮して評点数を定めて差し支えないものとする。」(同章三項)と定めた。

大阪市は、家屋の評点について、右自治庁評価基準三章三項の定める特例の方法によつて、これを求めることにした。しかし、自治庁評価基準は、右特例によつて家屋の評点数を求める場合について、その方法を具体的に規定しないで(自治庁評価基準三章一〇項以下の規定は、同章二項により家屋の評点数を求める原則的方法による場合のみに関する規定である。)、市町村がそれぞれの実情に応じてこれを定めるべく市町村に委ねた。そこで、大阪市は、同市の実情に応じ、条例をもつて、自治庁評価基準にならつて、前記特例的方法による固定資産評価の方法について基本となるべき事項について大阪市評価基準(乙第二〇号証。別冊昭和三一年度標準家屋一覧表・乙第二一号証を含む。)、その細部の実施の方法等について実施細則(乙第二〇号証)を制定した。

大阪市評価基準ならびに実施細則は、市内において、構造木造の家屋につき、用途別及び品位別に合計五九の家屋(内アパート・簡易旅館・ホテルは、標準家屋一覧表の番号29から32までの四家屋)を選定して標準家屋とし、それぞれについて、自治庁評価基準に準ずる工事別評点表により積算した評当積算評点を、一、〇〇〇点未満を四捨五入して、復成評点(再建築費評点数)を求めた。更に、各区内における家屋の評価を容易にし均衡を保持するため、各区において、標準家屋に準じて、家屋の構造別、用途別及び品位別に応じて比準家屋を選定し、標準家屋の復成評点に比準して比準家屋の復成評点も求めることにした。そして、標準家屋ならびに比準家屋に比準して、直接間接に標準家屋の復成評点に比準して、「達観により」(標準家屋一覧表目次備考欄)、各個の家屋の復成評点を評定するものとした。しかし、本件家屋の存在する生野区においては、アパートの用に供する家屋が少なかつたので、アパートについて比準家屋は選定されず、直接標準家屋に比準して本件家屋の復成評点が評定された。

すなわち、標準家屋一覧表中、アパート・簡易旅館・ホテルの標準家屋は、次の四家屋であつた。

(イ)  番号29、西成区所在株式会社久保田鉄工所姫松荘(寮)、概要・実用的な中流アパートで、仕上に華美な装飾を施していないが、材料施工共に実質的で堅固な建物、復成評点三四、〇〇〇点。

(ロ)  番号30、南区所在美空ホテル、概要・正面、玄関廻り、各室内等は一応綺麗に仕上げているが廊下、地下室等施工悪く、ホテルとしては中以下に属する、復成評点二九、〇〇〇点。

(ハ)  番号31、都島区所在福寿荘、概要・最低の予算で建築されたと思われるアパートで外観は一応整つているが、材料、施工、仕上等余り良好ならず、復成評点二三、〇〇〇点。

(ニ)  番号32、西成区所在簡易旅館、概要・単純な平面で、材料、施工、仕上及び設備の悪い簡易旅館、復成評点二二、〇〇〇点。

本件家屋は、右(ハ)の標準家屋に比準して、A棟、B棟とも復成評点二三、〇〇〇点と評定された。

そして、右のようにして求められた復成評点二三、〇〇〇点について、自治庁評価基準三章三項の定めるように「経過年数、損粍の程度、所在地の状況、床面積の広狭その他利用価値等を考慮」すべく、被告主張三の3及び4記載のとおり、大阪市評価基準、同実施細則の定める各種増減価考慮をしたうえ本件家屋の評価額五、五二九、〇〇〇円が認定された。

以上のとおり認められ、これに反する証拠はない。

四、請求原因二の1の主張について。

原告は、本件家屋の建築材料が格安のものであること、耐用年数が極めて短いこと、破損程度の著しいこと等を事由に、原告が本件家屋を取得した時における本件家屋の価格は二、四六八、〇〇〇円が相当であると主張する。

ところで、地方税法は、固定資産課税台帳に評価額の登録された不動産について、前記法七三条の二一の一項本文において右評価額によつて不動産取得税の課税標準額を決定するものとすると規定するとともに、同条同項但書として「但し、当該不動産について増築、改築、損かい、その他特別の事情がある場合において当該不動産の価格により難いときは、この限りでない。」と規定し、この場合は、道府県知事が、固定資産課税台帳の評価額、すなわち市町村長のなした評価とは別に、但し同一の評価の基準方法等によつて、当該不動産の評価をするものと定めている(同条二項、法三八八条三項)。そこで、固定資産課税台帳に価格の登録されている本件家屋の場合、被告としては、右法七三条の二一の一項本文の規定又は同条同項但書の規定のいずれかに従つて、その不動産取得税課税標準額を決定しなければならなかつたのである。

したがつて、原告の右主張は、結局、被告が前記認定のとおり法七三条の二一の一項本文の規定に従つて原告取得時における本件家屋の価格を決定したのは違法であるというのに帰し、同条同項但書の規定を適用して右価格を二、四六八、〇〇〇円と評価すべきであると主張するものと解するほかはない。しかし、同条同項但書にいう「増築、改築」については原告が何ら主張又は立証をしないところであるし、又、右但書にいう「損かい」ならびに「特別の事情」については原告が請求原因二の5ならびに3において、特に請求原因二の1の主張と区別して、具体的に主張をしている点から考えると、原告の請求原因二の1における前記主張は、具体的に法七三条の二一の一項但書所定のいかなる事項についての主張であるのか不明であるというのほかはないから、右主張は、主張じたい失当とすべきである。

五、請求原因二の2の主張について。

原告は、被告が異議申立の際に、評点式評価方法による自治庁評価基準にしたがつて本件家屋の評価をしたことに関し、自治庁評価基準の定める評価方法が不当であること、しかも自治庁評価基準適用上の誤りの存在することを主張する。

しかし、本件賦課決定において課税標準額とされた本件家屋の固定資産課税台帳上の評価額は、前記認定のとおり、大阪市長が、自治庁評価基準三章三項により、大阪市の実情に応じ、大阪市評価基準、同実施細則に従つて標準家屋の評点数に比準して本件家屋の再建築費評点数を求め各種増減価考慮を加えて、これを決定したものである。したがつて、被告が右評価額の当否を判定するため評価するとしても、逐一本件家屋の部分別評点数を算出し、これにとらわれるまでもなく、大阪市評価基準、同実施細則の定めるところに従つて、被告の立場から、前記標準家屋一覧表の番号29から32までのいずれの標準家屋の程度であるかを、全体的に判断して再建築費評点数を求め、かつ、大阪市評価基準、同実施細則の定める各種増減価考慮を検討して適用すべき場合であつたのである。そうすると、本件家屋の固定資産課税台帳上の評価額の当否を判断する上から、被告の算出した本件家屋の細部の評点数ないしその合計数は、必ずしも顧慮するを要しないものというべきである。

すると、異議申立の際に被告がなした評価に関する原告の主張は、すべて主張じたい失当とするほかはない。

六、請求原因二の3の主張について。

(一)  原告は、本件家屋の固定資産課税台帳の昭和三一年度評価額が、本件家屋の前所有者からの不服申立が終局的に行われずに確定していること、しかも、右評価額が評価の方法等を誤り不当であることを主張し、右事実は、法七三条の二一の一項但書にいう「特別の事情」にあたる旨を主張する。

そこで、右法七三条の二一の一項但書の「特別の事情」について考えてみる。

元来、同条同項本文の規定の立法趣旨は、不動産取得税の課税対象である不動産が通常は固定資産税の課税対象として固定資産課税台帳に評価額が登録されている不動産であるので、前記のとおり、行政技術的な観点から、不動産評価の統一化・客観化、徴税事務の比較的簡素化・合理化をはかろうとするものである。しかし、この趣旨を貫くあまり、明らかに事実に相違する固定資産課税台帳の評価額によることを固執すると、かえつて課税の均衡、公平の原則から逸脱することともなり失当であるので、その是正をはかる必要がある。そして、この必要から法七三条の二一の一項但書が規定されているのである。

したがつて、右但書の規定は、原告の主張するような前所有者からの評価額についての異議申立が却下され右評価額が確定した場合、そのこと自体に対処するための規定でないことは明らかであつて、右事実が右但書にいう「特別の事情」にあたるという原告の主張は失当である。

次に、固定資産課税台帳に評価上の誤りがあるときについてみると、その誤りが些細であるときは、前記法七三条の二一の一項本文及び但書の規定の各立法趣旨からみて、なお、右但書の「特別の事情」にあたらないというべきであり、この場合、道府県知事は同条同項本文の規定に従つて固定資産課税台帳の評価額を基準として不動産取得税の課税標準額を決定すべきであると解せられる。しかしながら、地方税法は、他方において、固定資産課税台帳に一たん登録した評価額について、不服申立による修正の場合は別論として、絶対に修正しないで確固不動のものとする建前をとるものではないのであつて、むしろ、登録をした市町村長自身に対して評価額に重大な錯誤があることを発見したときには直ちに修正して登録するよう努めることまで要請しているのであつて、(法四一七条一項)、このような点から考えると、法七三条の二一の一項本文の場合、固定資産課税台帳の評価額に重大な錯誤があるときまでも、なお右評価額を基準として不動産取得税の課税標準額としなければならないとする趣旨であるとは到底解することができないから、同条同項但書にいう「特別の事情」には、すくなくとも、固定資産課税台帳の評価額に最早これをその不動産の適正な時価(法七三条の一三の一項、七三条五号)として維持するのが相当でないと考えられる程度の重大な錯誤がある場合も含むと解するのが相当である。

法七三条の二一の一項但書の規定は、更に、「特別の事情」等がある場合にあつて「当該固定資産の価格により難いとき」という要件を加えている。右要件についても、前記法七三条の二一の一項本文及び但書の各規定の立法趣旨から考えてみると、同条同項本文のとる課税体系上の原則を排除し、道府県知事がみずから評価する必要があるとされる程度のもの(法七三条の二一の三項、四〇八条二項参照)、すなわち、固定資産課税台帳の評価額との差の著しいものをいうと解するのが相当である。

(二)  そこで、以下、本件について、前記認定の大阪市長の本件家屋評価額認定の過程上、原告主張の評価方法の誤りの存否、法七三条の二一の一項但書所定の「特別の事情」に該当する評価上の重大な錯誤の存否、同但書にいう「当該固定資産の価格により難いとき」に該当するかどうかを検討する。

(三)  原告の非難する評点式評価方法についてみる。

不動産の建築、取引等による取得価格は個々の事例ごとに異なるその主観的要素により千差万別である。地方税法は、固定資産税ないし不動産取得税徴税上、これに対処するため、右のような主観的要素を排除し、もつぱら客観的な適正な時価を統一的に把握して課税の公平をはかるために、不動産の評価は、法三八八条の規定に基づいて自治庁長官が道府県知事に示す評価の基準ならびに評価の実施の方法及び手続、すなわち自治庁評価基準(乙第九号証の一、二)にもとづいてこれをなすべきものと定めている。そして、大阪市条例である大阪市評価基準、同実施細則(乙第二〇、二一号証)は、自治庁評価基準三章三項の定める家屋評点数の特例的求め方について制定されたものであるから、結局はその根拠を地方税法におくものであつて租税法律主義に反しないといわねばならない。右自治庁評価基準、大阪市評価基準、同実施細則は、その内容を検討すると、前記地方税法の趣旨とするところに則した合理的な不動産の評価方法であると認められる。

大阪市長が、執行命令たる右自治庁評価基準、条例である大阪市評価基準、同実施細則に従つたのは、究極において地方税法の定めるところに従つたものであつて何ら違法の点はなく、本件家屋についてのみこれらの評価方法と異なる特別の評価方法によつて評価することは地方税法上許されないところである。

以上に関する原告の主張は、主張じたい失当とされねばならない。

(四)  つぎに、大阪市長が本件家屋を評価する過程において、自治庁評価基準、大阪市評価基準、同実施細則に違背し、評価上の重大な錯誤をおかしていないかどうかについてみる。

前示乙第九号証の一、二、証人八木健次郎の証言とこれにより真正に成立したと認める乙第六、七号証の各一ないし三(但し、乙第六、七号証の各一、二中、後記信用しない部分を除く。)、証人清水鉄夫の証言により真正に成立したと認める甲第五、六号証の各三、証人塩見清一、同小林弘、同辻肇の各証言、証人山口龍夫の証言(第一回。但し、後記信用しない部分を除く。)を総合すると、本件家屋の部分別、附帯設備について、次のとおり認められる。

まず、A棟の部分別は、(1)基礎・布コンクリートモルタル仕上、(2)土台・檜(三・五寸)(古材使用)、(3)屋根・和瓦並、(4)小屋組・切妻、(5)柱・檜板目小節(三・五寸)(古材使用)、(6)造作・和風造、(7)外壁・色モルタル仕上、(8)内壁・居室は真壁漆喰壁、廊下は大壁漆喰壁、(9)天井・一階居室は竿縁天井杉板目節色不揃、二階居室は竿縁天井ベニヤ、その他の部分は木摺り天井等、(10)床・一階床は畳床(中)、板張床杉又は松(巾七寸以上)釘頭露出、叩床はモルタル仕上、タイル張人造石研出仕上、二階床は畳床(中)、板張床縁甲張檜節、板張床杉又は松(巾七寸以上)釘頭露出、板張床モルタル塗仕上、(11)出窓・軸組杉材、造作杉又は松棚板縁甲張、(12)樋・丸樋トタン径九糎角アンコウ、(13)建具・襖は縁目起紙新鳥子、ガラス戸は横桟入枠杉小節並厚ガラス落込、板戸はフラツシユドア材ラワン(下)、鏡戸は一本引ベニヤ、玄関戸は引戸腰付桟入りガラス並厚、以上である。その附帯設備は、(イ)電気・電灯中級、(ロ)ガス・屋外配管、使用口、(ハ)給水・屋外配管、水栓、(ニ)排水・屋外排水管、屋内排水管、一、二階使用口、(ホ)便槽・コンクリート造汚物溜、二階便所用土管、(ヘ)便器洗面器・汲取式大、小便器(下)、水洗式大便器和式(下)、陶器製手洗器(下)、(ト)消火栓、以上である。

つぎに、B棟の部分別は、(1)基礎、(2)土台、(3)屋根、(4)小屋組、(5)柱、(6)造作、(7)外壁、(8)内壁、(11)出窓、(12)樋、(13)建具が、いずれもA棟と同じである。(9)天井は、一、二階居室は竿縁天井ベニヤ、その他の部分は木摺り天井等、(10)床は、一階床は畳床(中)、板張床縁甲張檜節、板張床杉又は松(巾七寸以上)釘頭露出、叩序はモルタル仕上、二階床は畳床(中)、板張床縁甲張檜節、板張床杉又は松(巾七寸以上)釘頭露出、板張床モルタル塗仕上である。その附帯設備は、(イ)電気、(ロ)ガス、(ハ)給水、(ニ)排水、(ホ)便槽、(ヘ)便器洗面器が、いずれもA棟と同じであるほかに、(ト)流しコンロ台炊事台がある。

以上のとおり認められ、乙第六、七号証の各一、二ならびに証人山口龍夫(第一回)の証言中、これに反する部分は信用しない。ほかに、右認定を左右する証拠はない。

以上のとおり認められる本件家屋を総合的にみて、標準家屋一覧表中、木造の部、用途(四)アパート・簡易旅館・ホテルの標準家屋四例と対照し、被告主張の番号31のアパート福寿荘その復成評点二三、〇〇〇点と同程度としたのは、標準家屋一覧表(乙第二一号証)の記載に徴し首肯できるところである(たとえ不当であるとしても、違法ということはできない。)。

そして、右標準家屋福寿荘の復成評点に比準して評定した本件家屋の復成評点に大阪市評価基準、同実施細則にもとづいて各種増減価考慮をし、本件家屋の復成評点五、五二九、〇〇〇点を求めた過程、更に、右五、五二九、〇〇〇点に大阪府知事が自治庁長官の指示にもとづき昭和三一年度の右評点一点当りの価額として定めた一円を乗じて、本件家屋の評価額を決定した過程を、逐一検討してみても失当とされる点は見出されない。

(五)  原告は、大阪市長の本件家屋の評価には請求原因二の2の(1)から(6)までの誤りがあると主張する。

1、床面積の広さによる考慮について(請求原因二の2の(1)の主張)。

大阪市評価基準、同実施細則は、本件家屋のようなアパートに対して、床面積が一定の広さを超えることによる減価考慮をしないことにしているから、この点に関する主張は、主張じたい失当である(大阪市評価基準三章一〇項1、同実施細則二章第二評価要領一五項参照)。

2、部分別評点数について(請求原因二の2の(2)から(5)までの主張)。

前記認定のとおり、本件家屋の評価は、自治庁評価基準三章三項、大阪市評価基準、同実施細則により、標準家屋に比準して、その評点数を求めた場合である。いいかえると、本件家屋について、天井板、天井の漆喰壁、板戸等の各部分別評点数を求め、これを合算して再建築費評点数を求めた場合ではなく、本件家屋を全体的総合的に判断して標準家屋の一と同程度であると評定した場合であるから、若干の部分別評点を云々して、大阪市長の評価額の認定を失当ということはできないのである。これら部分別評点数の多寡に関する原告の主張は主張じたい失当である。

なお、本件家屋は、建造物の構成材として古材を使用したものであることは前記認定のとおりであるが、古材使用の場合、必ずしも減価考慮すべきものとはされていないので、この点から大阪市長の評価に失当の点があるとはいえない(実施細則二章第二評価要領二項、三項参照)。

3、減価償却率について(請求原因二の2の(6)の主張)。

原告は、大阪市評価基準、同実施細則の定める経年減価考慮(大阪市評価基準三章八項2)と異なつた減価償却率の適用を主張するものであるから、主張じたい失当とするべきである。

(六)  以上のとおり、大阪市長が固定資産課税台帳に登録した本件家屋の評価額には、原告主張のような評価上の誤りはなく、同市長の評価は正当であつたと認められるから、評価上重大な錯誤があつた旨主張し法七三条の二一の一項但書の規定が適用されるべきであるという原告の主張は、その余の判断をするまでもなく、理由がない。

七、請求原因二の4の主張について。

固定資産課税台帳上の評価額に評価上重大な錯誤のあるときは法七三条の二一の一項但書の規定の「特別の事情」に該当すると解すべきことは先に判示したとおりであるから、原告の請求原因二の4の主張に対しては、右評価上の誤りが重大な錯誤といえない程度の誤りである場合に限定して判断すべきことになるのであるが、そうすると、原告の主張するところは、右のような場合に、固定資産税納税者である前所有者からの固定資産課税台帳の評価額についての不服申立が却下され右評価額が確定しているときは、法七三条の二一の一項本文の規定があるため、不動産取得税納税者としては右の程度の評価上の誤りを最早争う余地がないので、同規定は憲法三二条、七六条二項の規定に違反するというものと解せられる。

なるほど、法七三条の二一の一項本文の規定は、固定資産課税台帳の評価額、すなわち市町村長の評価と道府県知事の評価とに差異があつても、些細な見解の相違にもとづくような場合は、前記同規定の立法趣旨から、課税体系上、市町村長の評価を不動産取得税の課税標準として維持しようとする規定である。そして、本件の場合は、被告は本件家屋の固定資産課税台帳の評価額を、そのまま、不動産取得税の課税標準としている。しかし、法七三条の二一の一項本文は、「当該価格によつて・・・決定するものとする。」と規定しているのであつて、固定資産課税台帳の評価額自体をもつてそのまま不動産取得税の課税標準としなければならないとしているのではない(ちなみに、固定資産税の課税標準に関する法三四九条一項は、固定資産税の課税標準は「賦課期日現在における固定資産の価格で固定資産課税台帳に登録されたものとする。」と規定し、同規定と法七三条の二一の一項本文の規定とは明らかに区別される。)。したがつて、法七三条の二一の一項本文の規定は、道府県知事が固定資産課税台帳の評価額を基準としながらも若干の弾力性をもつて価格の決定をする裁量の余地を残しているのである。そこで、不動産取得税納税者としては、前記のような重大な錯誤といえない程度の評価上の誤りをも、右裁量の当否に関連して争訟において争う余地がないわけではない。原告の主張するように、法七三条の二一の一項本文の規定がおよそ違法な行政処分の救済を求める裁判を拒絶し国民の裁判を受ける権利を奪う規定であるとは、到底解することができないから、原告の憲法違反の主張は採用の限りではない。

八、請求原因二の5の主張について。

証人八木健次郎、同小林弘、同清水鉄夫、同塩見清一の各証言を総合すると、原告が本件家屋を取得した前後に、本件家屋の天井、便所等に破損があつたことが認められる。しかし、本件の全証拠によつても、右破損が固定資産税の賦課期日である昭和三一年一月一日から原告が本件家屋を取得した同年九月二六日までの間に生じたものと認めることができない。したがつて、右破損が法七三条の二一の一項但書にいう「損かい」にあたるかどうか等その他の判断をするまでもなく、原告の主張は、これを認めることができない。

九、よつて、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山内敏彦 平田孝 石井一正)

(別紙省略)

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